都道府県の順序は約100年前から同じ、四国は1000年同じ(かもしれない)

大正時代の人口統計を眺めていたら、道府県の配列がすでに現在よく使われているものと同じであることに気付いた。

現在よく使われている都道府県の配列とは、JIS X 0401 都道府県コードによるもので、01 北海道から 47 沖縄県まで北から順に並んでいる。しばしばJIS X 0402 市区町村コードとの組み合わせで用いられる。 全国地方公共団体コード - Wikipedia によれば以下のような経緯で制定されたらしい。

1968年、自治省(現総務省)が事務処理の簡素化のために導入した。1970年4月1日に行政管理庁(後の総務庁、現 総務省)が統計処理用のコードとしてこのコードを採用し、以降国勢調査などの各種統計に利用している。また、同日づけでJIS規格にも指定された。

順序自体もその頃に固まったものかと思い込んでいたが、戦前まで遡れることがわかったので、調べた範囲のことをメモしておく。

統計資料

国立国会図書館デジタルコレクションから、大正〜昭和初期の統計資料のうち府県別の表について、どのような順序になっているかを、地方別集計があるものはその区分を調べ、以下にまとめた。

発行年 調査年 資料名 府県順序 地方区分
大正元年 明治41年 日本帝国第三十一統計年鑑 5区分 5区分
大正2年 明治41年 日本帝国第三十二統計年鑑 5区分 5区分
大正3年 明治41年 日本帝国第三十三統計年鑑 9区分A 9区分A
大正9年 大正9年 国勢調査速報 世帯及人口 旧配列 9区分A
大正10年 大正7年公簿
大正9年国勢
日本帝国第四十統計年鑑 9区分A 9区分A
大正11年 大正7年公簿
大正9年国勢
第四十一回日本帝国統計年鑑 9区分A 9区分A
大正12年 大正9年 第四十二回日本帝国統計年鑑 9区分A 9区分A
大正13年 大正11年 日本帝国人口動態統計 旧配列
大正13年 大正9年 第四十三回日本帝国統計年鑑 9区分B 9区分B
大正14年 大正14年 国勢調査速報 旧配列 9区分B
大正14年 大正12年 日本帝国人口動態統計 9区分B
大正15年? 大正14年 国勢調査報告 第2巻 旧配列 9区分B
昭和3年 大正9年 国勢調査報告 全国の部 第1巻 現配列 9区分B
昭和5年 昭和5年 国勢調査速報 世帯及人口 現配列 9区分B
昭和10年 昭和5年 国勢調査報告 現配列 9区分B

府県が区分別になっていても(波括弧で括られていても)地方別の集計がない場合もあるようだ。

旧配列 区分→ 5区分 区分→ 9区分A 区分→ 9区分B
=現配列
1 東京府 本州中区 東京府 北海道 北海道
2 京都府 神奈川県 東北区 青森県 東北区 青森県
3 大阪府 埼玉県 岩手県 岩手県
4 神奈川県 千葉県 秋田県 宮城県
5 兵庫県 茨城県 山形県 秋田県
6 長崎県 栃木県 宮城県 山形県
7 新潟県 群馬県 福島県 福島県
8 埼玉県 長野県 関東区 茨城県 関東区 茨城県
9 群馬県 山梨県 栃木県 栃木県
10 千葉県 静岡県 群馬県 群馬県
11 茨城県 愛知県 埼玉県 埼玉県
12 栃木県 三重県 千葉県 千葉県
13 奈良県 岐阜県 東京府 東京府
14 三重県 滋賀県 神奈川県 神奈川県
15 愛知県 福井県 北陸区 新潟県 北陸区 新潟県
16 静岡県 石川県 富山県 富山県
17 山梨県 富山県 石川県 石川県
18 滋賀県 本州北区 新潟県 福井県 福井県
19 岐阜県 福島県 東山区 長野県 東山区 山梨県
20 長野県 宮城県 岐阜県 長野県
21 宮城県 山形県 滋賀県 岐阜県
22 福島県 秋田県 東海区 山梨県 東海区 静岡県
23 岩手県 岩手県 静岡県 愛知県
24 青森県 青森県 愛知県 三重県
25 山形県 本州西区 京都府 三重県 近畿区 滋賀県
26 秋田県 大阪府 近畿区 京都府 京都府
27 福井県 奈良県 兵庫県 大阪府
28 石川県 和歌山県 大阪府 兵庫県
29 富山県 兵庫県 奈良県 奈良県
30 鳥取県 岡山県 和歌山県 和歌山県
31 島根県 広島県 中国区 鳥取県 中国区 鳥取県
32 岡山県 山口県 島根県 島根県
33 広島県 島根県 岡山県 岡山県
34 山口県 鳥取県 広島県 広島県
35 和歌山県 四国区 徳島県 山口県 山口県
36 徳島県 香川県 四国区 徳島県 四国区 徳島県
37 香川県 愛媛県 香川県 香川県
38 愛媛県 高知県 愛媛県 愛媛県
39 高知県 九州区 長崎県 高知県 高知県
40 福岡県 佐賀県 九州区 大分県 九州区 福岡県
41 大分県 福岡県 福岡県 佐賀県
42 佐賀県 熊本県 佐賀県 長崎県
43 熊本県 大分県 長崎県 熊本県
44 宮崎県 宮崎県 熊本県 大分県
45 鹿児島県 鹿児島県 宮崎県 宮崎県
46 沖縄県 沖縄県 鹿児島県 鹿児島県
47 北海道 北海道 沖縄県 沖縄県

解説

  • 旧配列は、明治4年に発せられた太政官布告*1に基づく順序。東京府京都府大阪府の三府を筆頭に、四港、関東という重要地域が続き、その他の県は五畿七道順に並ぶ。
    47道府県が確立する以前の布告なので、新設された道府県などの順序に若干のブレがあるものの公的な場面では広く用いられていた。

  • 5区分沖縄県・北海道以外の府県を「本州中区」「本州北区」「本州西区」「四国区」「九州区」の5地方に区分するもの。区分内の順序は三府を筆頭に置きつつも一筆書きを指向しているように見え、他の配列にはあまり似ていない。
    国デジでは大正元年以降しか閲覧できないが、明治期における日本地誌の学習方式と地域区分によれば、この区分は明治23年の第九統計年鑑から用いられているらしい。

  • 9区分Aは「東北区」「関東区」「北陸区」「東山区」「東海区」「近畿区」「中国区」「四国区」「九州区」の9区分。区分内の順序は北東から南西への順に改められている。

  • 9区分Bは9区分Aから山梨県が東海区から東山区へ、滋賀県東山区から近畿区へ変更になり、区分内の順序も一部入れ替わりがある。

  • 現配列は順序に関しては9区分Bと変わりはないが、区分を示す波括弧が付いていないものを区別した。これは現在の都道府県コードと同じ順序。

職員録

一応統計以外の公的資料にも当たるべきだが、一つだけ触れておく。

職員録は、戦前においては北海道庁が先頭だったり、東京都制以降は二番手だったりするが、基本的には一貫して旧配列のようだ。

戦後のものはインターネット公開されていないが、目次は閲覧することができ、遅くとも昭和27年には現配列になっていることが確認できる。

まとめ

調べた範囲のことから以下のことが推測できそう。

  • 日本帝国第三十三統計年鑑の9区分をベースに、大正9年国勢調査に前後して調整が加えられて現在の順序が確立し、区分ありきの順序だったものがそのまま定着した。
  • 統計上の配列がそれ以外の用途にも広く用いられるようになったのは戦後、「北陸区」「東山区」「東海区」という区分が廃れても「中部地方」とみなして問題ないため手を加えられず使われ続けた。

また些細な点だが四国4県の「徳島県香川県愛媛県高知県」という順序はずっと変わっていないのが面白い。

旧配列は令制の「阿波国讃岐国伊予国土佐国」の順序を踏襲し、それを引き継いでいるので、1000年以上順序を維持していると言える。